ナカミヱズログ

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祈り方も知らなかったころ



フィリーネ8歳、ローゼマイン不在の子供部屋にて。将来結婚するダムフィリによる、ほんのりダムフィリ話。





 あれはわたくしが八歳を迎えた冬。まだ祈り方も知らなかったころ。



「これで全部だと思います。確認していただけますか?」
「ありがとう、フィリーネ」

 カルタの時間が終わり、片づけが始まります。わたくしはカルタが間違いなく全て揃っているかを一箱ずつ確認して、さらに大きな箱にまとめるお手伝いをしていました。もちろん、下級貴族の子供であるわたくしだけでは不十分ですから、もう一度大人か領主一族に見ていただく必要があります。そのさいに素早く確かめられるよう、カルタを文字順に揃えておくのです。
 一年前、子供部屋に来たばかりのころは基本文字も覚えきれていなかったわたくしですが、少しも引っかかることなくカルタを並べることができるようになっていました。ローゼマイン様のおかげです。階級に関係なくお勉強ができる子供部屋を作り、わたくし達のように生活の苦しい下級貴族にはお金ではないもので教材を貸してくださったのです。いくら感謝をしても足りません。

「……大丈夫だ、確かに揃っている」

 今日カルタをまとめているのはダームエル様です。ダームエル様は教師でも側仕えでもなくローゼマイン様の護衛騎士なのですが、目を配るのが上手で、困ったときにはすぐに助けてくださいます。ローゼマイン様のやり方を一番よくわかっているのもダームエル様のようで、下級騎士なのに、ヴィルフリート様もシャルロッテ様も頼りにしていらっしゃいます。もし彼がいなかったら子供部屋はもっと大変なことになっていたでしょう。ローゼマイン様が眠ってしまわれたのはとてもとても悲しいですが、ダームエル様が来てくださって良かったと思います。

「フィリーネはカルタを揃えるのも早くなったな」

 わたくしが子供だからと下に見ることもなく、丁寧に接してくださるのも嬉しいです。ダームエル様に褒められると、わたくしの頑張りをわかってもらえたようで、とても元気が出るのです。

 お父様もヨナサーラ様も、褒めてくださいませんから。

 ヨナサーラ様は貴族らしく感情を隠してはいますが、本当はわたくしが絵本を読むのもお話を書くのも嫌だと思っているようで、家でお勉強をするのは大変なのです。子供部屋にはわたくしが何をしていても機嫌が悪くなる方はいませんから、ほっとします。今年はローゼマイン様がいらっしゃらず、ヴィルフリート様のことでピリピリしていますが、それでも家とは比べ物になりません。皆でお勉強ができて、ゲームに勝てばご褒美もいただける……ローゼマイン様の子供部屋が続けられるよう、わたくしもできるだけのことをしたいと思います。

「フィリーネ、絵本の時間ですよ」

 ブリギッテ様が、お手伝いはここまでにして読み聞かせのほうに行くよう声をかけてくださいました。ブリギッテ様もお優しい方です。ダームエル様と同じローゼマイン様の護衛騎士で、中級貴族なのに嫌な顔ひとつせずにわたくし達下級の面倒も見てくださいます。子供とお話をしていない時は騎士らしく表情を引き締めて立っていますが、そういう時はとても凛々しくて格好いい、すてきな方なのです。

「騎士全員に伝えよ!」

 突然、殿方の厳しい声が響きました。部屋に控えている騎士の一人がオルドナンツを受け取ったようです。オルドナンツは冬の主が現れたと言い、子供部屋は一気にざわついた雰囲気になりました。冬の主とは、とても大きくて強い力を持ち、何十人もの騎士が何日もかけて倒す、大変な魔物だそうです。

「こちらはお任せします」
「承知しております、ご武運を」

 ダームエル様もブリギッテ様も、少し怖い顔をして大人達とお話しています。ヴィルフリート様やシャルロッテ様の護衛騎士もみな戦いに出て行くようです。領主一族の護衛騎士が主のお側を離れてまで倒さなければいけないなんて、どれほど恐ろしい魔物なのでしょう。

 去年はよくわかっておらず、急に子供部屋から家に帰されたことに驚き、知らせがあるまでお城に行けなくなったことを残念に思っていましたが、今年はわかります。ひどい吹雪の中、ダームエル様達が命をかけて戦いに行くのです。少し想像しただけで、恥ずかしくも目に涙がたまってきました。
 人前で泣くなどはしたないことです。涙をこぼさないよう、弱く少しずつまばたきをしていると、ダームエル様に声をかけられました。

「フィリーネ。心配いらない。騎士団は冬の主などに負けはしないよ」

 危険な所に行くのは自分達だというのに、わたくしを安心させようとしてくださっているダームエル様の笑顔に、止めきれなくなった涙がぽろりとこぼれました。

「ダームエル様。ご、ご武運を……」

 大人達の会話からいま覚えたばかりの挨拶を使うと、ダームエル様は手を伸ばして、わたくしの頭をそっと撫でてくださいました。

「ありがとう。……行って来る」

 わたくしは涙を拭いて、ダームエル様とブリギッテ様のマントがそろって部屋を出て行くのを見送りました。

 神よ。どなたにも、怪我などありませんように。



 わたくしの拙い祈りは神に届いたのか届かなかったのか……それは定かではありませんが。撫でられた頭がふわふわと温かかったことも、一週間ほどで再会できたダームエルの笑顔も、とても嬉しかったことを良く覚えています。
 今思えば、わたくしはあのころすでにダームエルを想っていたのかも知れません。

「ただいま」
「おかえりなさいませ」

 そう、あれはこんな喜びでした。

「……ハァ。今度の主も手強かったが……
 マティアスとラウレンツの連携がとても巧みになっていた。フェルディナンド様も相変わらずのご活躍でな。
 覚悟していたよりは早く片付いて良かったよ」
「はい。ご無事で何よりです。
 武勇の神アングリーフに、感謝を……」

 わたくしは胸に満ちて行く温かさに突き動かされるまま、今は夫となったダームエルの腕に飛び込みました。







  - 了 -







あとがき
 
 お読みいただきありがとうございます。神に祈りを!

 今回は子供部屋の状況など憶測(妄想)で書いた点が多いので、前以上に目をつぶっていただけたらと思います。
 あとエックハルトとコルネリウスもきちんと活躍しています。(女性騎士は産休です)

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追記(2018/11/10):今日発売の『ふぁんぶっく3』情報により、夏の主のつじつま合わせがちょっとアレになりましたが、そのための書き直しはしないつもりです~。ご容赦ください。


改題(2025.10.21):
 旧題『祈り方も知らなかった冬』
 新題『祈り方も知らなかったころ』
普通に冬の話なのでこのタイトルをつけましたが、なにしろ『冬』ですから、なにかしらの期待をなさる方がどうしてもおられるようなので……
 妥協しました(笑)

 しかし、2018年に書いたものとあって、今読むといわゆる『解像度』的にも少々厳しいものがありますね……冬の主のことは部屋内の騎士に静かに伝えられるでしょうし、他にも……。
 原則として作品は消さない主義ですので置いておきますけれども、いろいろご容赦いただけますと幸いです。
 



[本好きの下剋上ファン作品 No.03]

#ダムフィリ #本好きファン小説