シャットダウン 原作本編終了後の時間軸。フェルマイ。2018年10月19日のキス祭り(?)に乗らせていただきました。「……口付けをしても?」「え?」 自分が想われている時の顔、というのは気付いてしまうとばつが悪い。フェルディナンドは隠し部屋でわたしと目が合うと、大切そうに、愛おしそうに、優しく……それなのにどこか辛そうに、目を細めて微笑むのだ。わたしからは同じ気持ちを返せない罪悪感が募ってしまう。 そんな顔でこんな事を言われたらなおさらだ。というか、わたしが処理落ちした。 ……口付け? フェルディナンド様が? 口付けってあの? 食べ物の話じゃないよね? フェルディナンド様が? 誰と? フェルディナンド様が? ……わたし? わたしが固まってどのくらい過ぎただろう。フェルディナンドの笑みが面白がるように崩れた。「……と、尋ねてからしたそうだ。ダームエルは」「ダームエルは」 ポカンとしたまま復唱すると、フェルディナンドは楽しそうに肩を揺らした。「そうですか、ダームエルが。……って!」 ……からかいましたね!? 情緒のかけらもない婚約者を持って苦悩する家族の気持ちを案じる、真摯な乙女に対してなんてことを。ちょうど読み終わっていた本を閉じて、ふんぬぅ、と怒りをこめて睨み上げるが、全く効果はない。 ……そもそも、そんな細かいところまで聞き出してたの? 婚約者のフィリーネを隠し部屋に連れ込んでいたことがバレて貴重な面会時間がほとんど事情聴取になってしまったダームエルの、塩をかけたなめくじのような顔色を思い出す。いや、実際になめくじに塩をかけてみたことはないから、どんな様子になるのか知らないけれど。 あの時はわたしもフィリーネを問い詰めて、魔力を流された感想からダームエルに贈られた求愛の魔術具の数まで根掘り葉掘り聞いた。仕方がなかったのだ。真っ赤になって涙ぐむフィリーネがいくら可哀想でも知る義務がある。わたしはフィリーネの主なのだから。あくまで主の務めを果たしただけで、いい取材になっただとかお母様に横流しして次の本のネタにしてもらおうだなんてかけらも思っていない。 ……万が一にも、億が一にも、フィリーネの体調が十ヶ月ほど激変するようなことがあったなら、放っておけるはずがないし。 でもフェルディナンドは違う。昔からダームエルを便利に使ってきたし、これからも使う立場になるだろうけれど、直接の主ではない。恋物語に興味もないのだから、ファーストキス前のシチュエーションなどという面白……ゴホン、個人的なことまで聞き出すのに、理由らしい理由はないはずだ。「フェルディナンド様、ダームエルをどれだけ苛めたのですか?」「苛めてなどおらぬ。ただ、ローゼマインに信頼されエーレンフェストの各業務とフィリーネを任された護衛騎士が、いかにして成人も星結びも待たず婚約者に接触するに至ったかを詳らかにさせただけだ」「完全に脅しじゃないですか!」 フェルディナンドにそんなことを言われたら、ダームエルはサンドバッグより無抵抗になるだろう。せめてわたしが代わりに憤慨してあげると、フェルディナンドはフンと鼻を鳴らして手にしていた魔術具をテーブルに置いた。作業がひと段落ついたのだろう、道具類を軽く片付けて、長椅子のわたしの隣に腰掛ける。ひょい、とわたしの手から本を取り上げて、それもテーブルに置いた。 ……近い! フェルディナンドがぐっと顔を近づけてきて、わたしは思わず息を呑んだ。いつも近すぎる近すぎると眉をつりあげるコルネリウスにそんなことはないと返して来たわたしでも思う。これは近い。ぎゅーほどはくっついていないはずなのに、全く違う距離感に頭がくらりとする。「このように、長椅子に並んで腰掛けて迫ったそうだ」 肩に手を回して引き寄せられて、反対の手できゅっと手を握られる。これがダームエルの白状したことの再現なら、ダームエルはずいぶんと頑張ったものだ。 ……今のわたしにダームエルを褒めていられる余裕なんてないけれど! フェルディナンドの体温はこんなに高かっただろうか。力のこめられた腕が、密着している半身が熱い。「あ、あの……」「口付けを、しても?」 さっきと同じセリフを口にしたフェルディナンドの表情は真剣なものに変わっていて、わたしはまたも言葉を失った。 ……これも再現? ……それとも。 心臓が高鳴り、魔力の蓋がぶわっと開く。全身が湯沸かし器になったようでいたたまれない。フェルディナンドはますます近づいてくる。どうしよう。どうしたらいいの。怖くなるほど戸惑っているのに、何かに縫いとめられたように動けない。「……マイン」 名を呼ばれ、薄い金の瞳の奥にフェルディナンドの望みを見た瞬間、わたしのまぶたは勝手に落ちた。お読みいただきありがとうございます。こういうタイミング? みたいなものに乗れることがあまりないもので、書き上げられて嬉しいような、気恥ずかしいような、色々と動揺していますが、少しでも楽しんでいただけたなら何よりです。(いいねやRTなどにはとても喜ぶほうです、よろしければお願いします……!)しかし本当、大変なものが投下されましたね……! 先生こわい! フェルマイこわい!(※まんじゅう怖い)感情を自覚する前のフェルディナンド様も良いのですけれど、いけしゃあしゃあとしているフェルディナンド様もとても好きです。2025/05/23追記:『ハン五』53話(2025/5/14更新)により時系列が原作世界と矛盾すると言いますか……ローゼマインの情緒が原作に比べて不足しているかも知れないという事態になりましたが、ご容赦ください。(※自覚後のロゼマ様がフェ様と二人きりになった時の様子はまだ出ていませんので、完全に矛盾したとも言い切れません)『キス祭り』については、某SNSの検索らんにコレ↓を入れてぽちっとすればわかるかと。from:miyakazuki01 since:2018-10-19_23:55:00_JST until:2018-10-20_00:10:00_JST include:nativeretweets2025/10/22追記: 作品説明文に付記してあった(※ダームエルがフィリーネと婚約しています) の一文を抜きました。 原作書籍最終巻の加筆により、婚約同然の認識が広まりましたので。(2017年の時点でダムフィリは婚約発表されていたも同然なのですが、2024年になってやっと、やっと、認識が広まってくれたのですよ……。……実を言うと、未だに『婚約』や『結婚相手』などとハッキリ書かれたことはないんですけれどね(笑) 周囲のキャラの態度からなんとなく推測はできても、『アレキサンドリア移動予定者として共に行動する』という記載から「将来の約束を交わした後だ」と断言するには『ダームエルの立場では結婚相手がいなければローゼマインを追って移動できない』というユルゲンシュミット知識と理解が必要です。)[本好きの下剋上 ファン作品 No.5]#フェルマイ#ダムフィリ #本好きファン小説 本好きファン作品/小説* 2018/10/20(Sat) 23:29
原作本編終了後の時間軸。フェルマイ。2018年10月19日のキス祭り(?)に乗らせていただきました。
「……口付けをしても?」
「え?」
自分が想われている時の顔、というのは気付いてしまうとばつが悪い。フェルディナンドは隠し部屋でわたしと目が合うと、大切そうに、愛おしそうに、優しく……それなのにどこか辛そうに、目を細めて微笑むのだ。わたしからは同じ気持ちを返せない罪悪感が募ってしまう。
そんな顔でこんな事を言われたらなおさらだ。というか、わたしが処理落ちした。
……口付け? フェルディナンド様が? 口付けってあの? 食べ物の話じゃないよね? フェルディナンド様が? 誰と? フェルディナンド様が? ……わたし?
わたしが固まってどのくらい過ぎただろう。フェルディナンドの笑みが面白がるように崩れた。
「……と、尋ねてからしたそうだ。ダームエルは」
「ダームエルは」
ポカンとしたまま復唱すると、フェルディナンドは楽しそうに肩を揺らした。
「そうですか、ダームエルが。……って!」
……からかいましたね!?
情緒のかけらもない婚約者を持って苦悩する家族の気持ちを案じる、真摯な乙女に対してなんてことを。ちょうど読み終わっていた本を閉じて、ふんぬぅ、と怒りをこめて睨み上げるが、全く効果はない。
……そもそも、そんな細かいところまで聞き出してたの?
婚約者のフィリーネを隠し部屋に連れ込んでいたことがバレて貴重な面会時間がほとんど事情聴取になってしまったダームエルの、塩をかけたなめくじのような顔色を思い出す。いや、実際になめくじに塩をかけてみたことはないから、どんな様子になるのか知らないけれど。
あの時はわたしもフィリーネを問い詰めて、魔力を流された感想からダームエルに贈られた求愛の魔術具の数まで根掘り葉掘り聞いた。仕方がなかったのだ。真っ赤になって涙ぐむフィリーネがいくら可哀想でも知る義務がある。わたしはフィリーネの主なのだから。あくまで主の務めを果たしただけで、いい取材になっただとかお母様に横流しして次の本のネタにしてもらおうだなんてかけらも思っていない。
……万が一にも、億が一にも、フィリーネの体調が十ヶ月ほど激変するようなことがあったなら、放っておけるはずがないし。
でもフェルディナンドは違う。昔からダームエルを便利に使ってきたし、これからも使う立場になるだろうけれど、直接の主ではない。恋物語に興味もないのだから、ファーストキス前のシチュエーションなどという面白……ゴホン、個人的なことまで聞き出すのに、理由らしい理由はないはずだ。
「フェルディナンド様、ダームエルをどれだけ苛めたのですか?」
「苛めてなどおらぬ。ただ、ローゼマインに信頼されエーレンフェストの各業務とフィリーネを任された護衛騎士が、いかにして成人も星結びも待たず婚約者に接触するに至ったかを詳らかにさせただけだ」
「完全に脅しじゃないですか!」
フェルディナンドにそんなことを言われたら、ダームエルはサンドバッグより無抵抗になるだろう。せめてわたしが代わりに憤慨してあげると、フェルディナンドはフンと鼻を鳴らして手にしていた魔術具をテーブルに置いた。作業がひと段落ついたのだろう、道具類を軽く片付けて、長椅子のわたしの隣に腰掛ける。ひょい、とわたしの手から本を取り上げて、それもテーブルに置いた。
……近い!
フェルディナンドがぐっと顔を近づけてきて、わたしは思わず息を呑んだ。いつも近すぎる近すぎると眉をつりあげるコルネリウスにそんなことはないと返して来たわたしでも思う。これは近い。ぎゅーほどはくっついていないはずなのに、全く違う距離感に頭がくらりとする。
「このように、長椅子に並んで腰掛けて迫ったそうだ」
肩に手を回して引き寄せられて、反対の手できゅっと手を握られる。これがダームエルの白状したことの再現なら、ダームエルはずいぶんと頑張ったものだ。
……今のわたしにダームエルを褒めていられる余裕なんてないけれど!
フェルディナンドの体温はこんなに高かっただろうか。力のこめられた腕が、密着している半身が熱い。
「あ、あの……」
「口付けを、しても?」
さっきと同じセリフを口にしたフェルディナンドの表情は真剣なものに変わっていて、わたしはまたも言葉を失った。
……これも再現? ……それとも。
心臓が高鳴り、魔力の蓋がぶわっと開く。全身が湯沸かし器になったようでいたたまれない。フェルディナンドはますます近づいてくる。どうしよう。どうしたらいいの。怖くなるほど戸惑っているのに、何かに縫いとめられたように動けない。
「……マイン」
名を呼ばれ、薄い金の瞳の奥にフェルディナンドの望みを見た瞬間、わたしのまぶたは勝手に落ちた。
お読みいただきありがとうございます。
こういうタイミング? みたいなものに乗れることがあまりないもので、書き上げられて嬉しいような、気恥ずかしいような、色々と動揺していますが、少しでも楽しんでいただけたなら何よりです。
(いいねやRTなどにはとても喜ぶほうです、よろしければお願いします……!)
しかし本当、大変なものが投下されましたね……! 先生こわい! フェルマイこわい!(※まんじゅう怖い)
感情を自覚する前のフェルディナンド様も良いのですけれど、いけしゃあしゃあとしているフェルディナンド様もとても好きです。
2025/05/23追記:
『ハン五』53話(2025/5/14更新)により時系列が原作世界と矛盾すると言いますか……ローゼマインの情緒が原作に比べて不足しているかも知れないという事態になりましたが、ご容赦ください。
(※自覚後のロゼマ様がフェ様と二人きりになった時の様子はまだ出ていませんので、完全に矛盾したとも言い切れません)
『キス祭り』については、某SNSの検索らんにコレ↓を入れてぽちっとすればわかるかと。
from:miyakazuki01 since:2018-10-19_23:55:00_JST until:2018-10-20_00:10:00_JST include:nativeretweets
2025/10/22追記:
作品説明文に付記してあった
(※ダームエルがフィリーネと婚約しています)
の一文を抜きました。
原作書籍最終巻の加筆により、婚約同然の認識が広まりましたので。
(2017年の時点でダムフィリは婚約発表されていたも同然なのですが、2024年になってやっと、やっと、認識が広まってくれたのですよ……。
……実を言うと、未だに『婚約』や『結婚相手』などとハッキリ書かれたことはないんですけれどね(笑)
周囲のキャラの態度からなんとなく推測はできても、『アレキサンドリア移動予定者として共に行動する』という記載から「将来の約束を交わした後だ」と断言するには『ダームエルの立場では結婚相手がいなければローゼマインを追って移動できない』というユルゲンシュミット知識と理解が必要です。)
[本好きの下剋上 ファン作品 No.5]
#フェルマイ#ダムフィリ #本好きファン小説