婚約者との別れ 説明文とあとがきを足したほうが長いのでは? というくらい短いif話。ロゼマ三年時の嫁とりディッターでダンケルフェルガーが勝利した世界の主人公視点。『設定等まとめ22』Q13の香月先生の返答に触発されて書いたものなので、そちらをふまえた上でどうぞ。「其方はそれで良いのか」 その言葉に、あの日の父さんの言葉が、重なって聴こえた気がした。『……それは、生きてるとは言えんだろう』 貴族に飼い殺しにされる、という言葉の意味を家族に説明して、そんな延命よりも家族と朽ちることを選んだあの日。今となってはひどく懐かしいような気もするけれど。 ……結局、似たようなことになっちゃったね。 貧民の兵士の子供が、青色巫女見習いになり、領主の養女になり、大領地の次期領主の婚約者にまでなったけれど、ダメだった。わたしはユルゲンシュミットにグルトリスハイトをもたらし、維持するために、次期王に飼われるかのような生活を受け入れることが決まってしまった。「ローゼマイン」 わたしの目の前にある唇は、貴族らしくなくゆがんで、震えていた。 ……良くない。全然良くないよ。 せっかく、ヴィルマとは画風の違う専属絵師と大領地の権力を手に入れて、成人したらババーンと本を作りまくってやろうと思っていたのに。 ……でも、少しだけ嬉しい。 いまここにいるこの人が、わたしを憂いていてくれる。あの日の父さんのように、家族のように、わたし自身を思っていてくれる。貴族になってからのわたししか知らなくても、こんなにわたし自身を見ようとしてくれる人がいる。それが嬉しい。 ……ディッターに負けて婚約させられた時は悔しかったけれど。 少し近くで見てみれば、この人はある意味わたしの同類だった。自由の少ない領主候補生としての生活の中でできるだけ絵を描こうとしていて、妹のハンネローレ様を大事にしていて。婚約前にもそこそこ知っていたことだけれど、ずっとよくわかるようになって。 ……わたしのことも、守ってくれようとしたんだよね。 震えている唇から目線を上げると、赤いはずの瞳は虹色にゆらいでいた。わたしとの婚約を奪われることになった怒り、危惧していたのに防げなかった悔しさ、これからのわたしの心配……さまざまな感情がごちゃ混ぜになっているように見える。きっと、全部全部、わたしのせいで湧きあがった感情だ。 ……こんな顔を見せられたら、頑張れちゃうよ。「……良くはないですよ。でも、ユルゲンシュミットのためですもの」 わたしは精一杯の笑顔を作って、王族により破棄されることが決定した婚約の相手を見つめる。 ……あなたが力を尽くしてくれたから。 反逆罪に問われるのではと心配になるくらい、頑張ってくれたから。だから。 ……ユルゲンシュミットは、崩壊させない。 わたしの家族、わたしを支えてくれた大切な人達が、これからも生きて行けるように。あなたが絵を描いていられるように。「今度はわたくしが国ごとダンケルフェルガーを守ります」 ぱたぱたと水滴が落ちる音がする。虹色に輝く魔石にも似た雫は、どちらのものだろう。 貴族らしからぬ無様な顔をお互いに晒しながら。わたし達は最初で最後の二人きりの時間を静かに過ごした。 了あとがきと余談 お読みいただきありがとうございます。 原作でも主人公はレスティラウトの人情味に気づいて好評価しているフシがありますが、もしももっと接する機会があって、レスティラウトが『絵を描きたいのをめちゃくちゃ我慢して領主一族の役割をこなしている』人であり、自分のことを案じてくれる人でもあるのだと実感できたなら、主人公はそこそこ落ち着いた気持ちで婚約者になって行けたのではないかと思っています。ので、そんな感じのifを形にしてみました。 このifではこのあと、原作ではハンネローレが出撃したところでレスティラウトが出撃します。それでありつつ、フェルディナンドを救い出したあとのアウブ・アーレンスバッハの婚約者は原作通り。そのままアレキサンドリアも建領されます。 原作のフェルディナンドを「わたしに家族を返してくれた人」とするなら、このifのレスティラウトは『家族にわたしを返してくれた、かけがえのない人』になる感じ。身も蓋もなく言えば、将来的に恋愛感情を向けられるのはレスのほうです。 この余談までは読まない方にとっては『主人公は婚約者に好意を持っているが、好意の種類は不明』となるように書いていますので、この作品に『カップリング名』はありませんけれども。(……ありませんけれども。レスロゼ作品と受け取られたり、それとして紹介いただいたとしても不都合はありません。気に入られたならよろしくお願いします。)2026/10/30 ごく一部を改稿[本好きの下剋上ファン作品 No.23] #嫁とり敗北IF #レスティラウト #ローゼマイン #なかみゑ自薦 本好きファン作品/小説* 2023/02/27(Mon) 21:50
説明文とあとがきを足したほうが長いのでは? というくらい短いif話。ロゼマ三年時の嫁とりディッターでダンケルフェルガーが勝利した世界の主人公視点。『設定等まとめ22』Q13の香月先生の返答に触発されて書いたものなので、そちらをふまえた上でどうぞ。
「其方はそれで良いのか」
その言葉に、あの日の父さんの言葉が、重なって聴こえた気がした。
『……それは、生きてるとは言えんだろう』
貴族に飼い殺しにされる、という言葉の意味を家族に説明して、そんな延命よりも家族と朽ちることを選んだあの日。今となってはひどく懐かしいような気もするけれど。
……結局、似たようなことになっちゃったね。
貧民の兵士の子供が、青色巫女見習いになり、領主の養女になり、大領地の次期領主の婚約者にまでなったけれど、ダメだった。わたしはユルゲンシュミットにグルトリスハイトをもたらし、維持するために、次期王に飼われるかのような生活を受け入れることが決まってしまった。
「ローゼマイン」
わたしの目の前にある唇は、貴族らしくなくゆがんで、震えていた。
……良くない。全然良くないよ。
せっかく、ヴィルマとは画風の違う専属絵師と大領地の権力を手に入れて、成人したらババーンと本を作りまくってやろうと思っていたのに。
……でも、少しだけ嬉しい。
いまここにいるこの人が、わたしを憂いていてくれる。あの日の父さんのように、家族のように、わたし自身を思っていてくれる。貴族になってからのわたししか知らなくても、こんなにわたし自身を見ようとしてくれる人がいる。それが嬉しい。
……ディッターに負けて婚約させられた時は悔しかったけれど。
少し近くで見てみれば、この人はある意味わたしの同類だった。自由の少ない領主候補生としての生活の中でできるだけ絵を描こうとしていて、妹のハンネローレ様を大事にしていて。婚約前にもそこそこ知っていたことだけれど、ずっとよくわかるようになって。
……わたしのことも、守ってくれようとしたんだよね。
震えている唇から目線を上げると、赤いはずの瞳は虹色にゆらいでいた。わたしとの婚約を奪われることになった怒り、危惧していたのに防げなかった悔しさ、これからのわたしの心配……さまざまな感情がごちゃ混ぜになっているように見える。きっと、全部全部、わたしのせいで湧きあがった感情だ。
……こんな顔を見せられたら、頑張れちゃうよ。
「……良くはないですよ。でも、ユルゲンシュミットのためですもの」
わたしは精一杯の笑顔を作って、王族により破棄されることが決定した婚約の相手を見つめる。
……あなたが力を尽くしてくれたから。
反逆罪に問われるのではと心配になるくらい、頑張ってくれたから。だから。
……ユルゲンシュミットは、崩壊させない。
わたしの家族、わたしを支えてくれた大切な人達が、これからも生きて行けるように。あなたが絵を描いていられるように。
「今度はわたくしが国ごとダンケルフェルガーを守ります」
ぱたぱたと水滴が落ちる音がする。虹色に輝く魔石にも似た雫は、どちらのものだろう。
貴族らしからぬ無様な顔をお互いに晒しながら。わたし達は最初で最後の二人きりの時間を静かに過ごした。
了
あとがきと余談
お読みいただきありがとうございます。
原作でも主人公はレスティラウトの人情味に気づいて好評価しているフシがありますが、もしももっと接する機会があって、レスティラウトが『絵を描きたいのをめちゃくちゃ我慢して領主一族の役割をこなしている』人であり、自分のことを案じてくれる人でもあるのだと実感できたなら、主人公はそこそこ落ち着いた気持ちで婚約者になって行けたのではないかと思っています。ので、そんな感じのifを形にしてみました。
このifではこのあと、原作ではハンネローレが出撃したところでレスティラウトが出撃します。それでありつつ、フェルディナンドを救い出したあとのアウブ・アーレンスバッハの婚約者は原作通り。そのままアレキサンドリアも建領されます。
原作のフェルディナンドを「わたしに家族を返してくれた人」とするなら、このifのレスティラウトは『家族にわたしを返してくれた、かけがえのない人』になる感じ。身も蓋もなく言えば、将来的に恋愛感情を向けられるのはレスのほうです。
この余談までは読まない方にとっては『主人公は婚約者に好意を持っているが、好意の種類は不明』となるように書いていますので、この作品に『カップリング名』はありませんけれども。
(……ありませんけれども。レスロゼ作品と受け取られたり、それとして紹介いただいたとしても不都合はありません。気に入られたならよろしくお願いします。)
2026/10/30 ごく一部を改稿
[本好きの下剋上ファン作品 No.23]
#嫁とり敗北IF #レスティラウト #ローゼマイン #なかみゑ自薦