はるかなるキャンバス 老いて引退したレスティラウトがはるか高みにのぼるまでの短い話。まえおき:ユルゲンシュミットやメスティオノーラの書の仕様を変更するなど、「こんなことは起こり得ない」と私自身も思う設定をあえて採用している部分があります。この話独自のものとしてお楽しみ下さい。それと、若者が老人になるくらい時間が過ぎているため、他のキャラもけっこう亡くなってます。よしなに。---------- アウブは我が孫の代となり、その治世も落ち着いた。もはや、私にしかできないことなど、この地にはない。 これからは好きに絵を描いて欲しいと。引退し、城に残されていた執務室をも完全に引き払った私を、皆は快く送り出してくれた。 ……好きに。なんでも自由に。 ようやく得ることのできた思いのままに過ごせる時間を、私は絵筆と共に過ごした。時には妻の肖像を描き、「わたくしと過ごす時間すら絵ですか」と呆れられながらも。子を描き、孫を描き、心の琴線に触れたものを心のままに描き。充実した日々だった。 ……だが、描き足りぬ。 老いた妻がはるか高みに向かうのを見送ったあと、私は貴族院へと足を運んだ。 ……これが本物の、メスティオノーラの書。 ローゼマインによる祠の『再発見』から数十年。全ての眷属神の祠が揃った聖地を巡り、神のご加護を得た私は、ついに英知の女神 メスティオノーラの招きを受け、知識の奔流に圧倒されることとなった。 ……本当であったか。はるか高みに昇った者の知識が女神の英知に加わるという話は。 流れ込んできた光景に、父から見た私の姿があった。「これがダンケルフェルガーの礎に至る鍵である」と教えられた若き日の緊張と高揚までもが胸に蘇る。 ……ならぬ。思考を止めて受け止めなければ、知識がこぼれ落ちてしまう。 過去のダンケルフェルガーの事情。美しい奉納舞や祝福。そういった光景が流れ込むたびに気を取られ、描き方を考えてしまう己を叱咤しながら、女神の英知を受け入れる。だが、私の自制は続かなかった。 ……なんだ、これは? ローゼマイン。いや、マイン? いや、これは…… ……モトス、ウラノ? ニホン? チキュウ? 私はいくらかの知識をこぼしながらも、『聖女』の『夢の世界』を垣間見た。それは、それこそがメスティオノーラの書を得た目的だったが、想像の域を遥かに越えるものだった。 ……国境門でつながる外国どころではない。世界はさらに広く遠かったのか。 この命が尽きる前に、生涯で最も描き足りぬと感じたものに少しでも近づこう。そんな私の考えは半分ほど打ち砕かれた。私はもっと知りたい。ユルゲンシュミットという箱庭だけではなく、彼女が知っていた世界を。もっと見て、もっと描きたい。 それから私は、絵筆がとれなくなるまで『夢の世界』の絵を描き続けた。 ……神よ。もしも私も生まれ変わることができるのであれば、もっと。 はるか高みに向かう瞬間。私は脳裏に浮かぶ青く丸い星に向かって手を伸ばした。 - 了 -あとがき(2024.11.25加筆): 最後のワンシーンがどうしても書きたくなって形にしたものでした。レスティラウト様なら青い星を美しいと感じてくださると思いまして……。 レスティラウト様に地球を見て欲しかったがために、いろいろと設定的な無茶をしてしまいましたが(笑) 「見せたかったなら仕方ないよネ!」とでも流していただけましたら幸いです。 お読みいただきありがとうございました。[本好きの下剋上ファン作品 No.20]#レスティラウト #本好きファン小説 本好きファン作品/小説* 2022/07/04(Mon) 00:47
老いて引退したレスティラウトがはるか高みにのぼるまでの短い話。
まえおき:
ユルゲンシュミットやメスティオノーラの書の仕様を変更するなど、「こんなことは起こり得ない」と私自身も思う設定をあえて採用している部分があります。この話独自のものとしてお楽しみ下さい。
それと、若者が老人になるくらい時間が過ぎているため、他のキャラもけっこう亡くなってます。よしなに。
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アウブは我が孫の代となり、その治世も落ち着いた。もはや、私にしかできないことなど、この地にはない。
これからは好きに絵を描いて欲しいと。引退し、城に残されていた執務室をも完全に引き払った私を、皆は快く送り出してくれた。
……好きに。なんでも自由に。
ようやく得ることのできた思いのままに過ごせる時間を、私は絵筆と共に過ごした。時には妻の肖像を描き、「わたくしと過ごす時間すら絵ですか」と呆れられながらも。子を描き、孫を描き、心の琴線に触れたものを心のままに描き。充実した日々だった。
……だが、描き足りぬ。
老いた妻がはるか高みに向かうのを見送ったあと、私は貴族院へと足を運んだ。
……これが本物の、メスティオノーラの書。
ローゼマインによる祠の『再発見』から数十年。全ての眷属神の祠が揃った聖地を巡り、神のご加護を得た私は、ついに英知の女神 メスティオノーラの招きを受け、知識の奔流に圧倒されることとなった。
……本当であったか。はるか高みに昇った者の知識が女神の英知に加わるという話は。
流れ込んできた光景に、父から見た私の姿があった。「これがダンケルフェルガーの礎に至る鍵である」と教えられた若き日の緊張と高揚までもが胸に蘇る。
……ならぬ。思考を止めて受け止めなければ、知識がこぼれ落ちてしまう。
過去のダンケルフェルガーの事情。美しい奉納舞や祝福。そういった光景が流れ込むたびに気を取られ、描き方を考えてしまう己を叱咤しながら、女神の英知を受け入れる。だが、私の自制は続かなかった。
……なんだ、これは?
ローゼマイン。いや、マイン? いや、これは……
……モトス、ウラノ? ニホン? チキュウ?
私はいくらかの知識をこぼしながらも、『聖女』の『夢の世界』を垣間見た。それは、それこそがメスティオノーラの書を得た目的だったが、想像の域を遥かに越えるものだった。
……国境門でつながる外国どころではない。世界はさらに広く遠かったのか。
この命が尽きる前に、生涯で最も描き足りぬと感じたものに少しでも近づこう。そんな私の考えは半分ほど打ち砕かれた。私はもっと知りたい。ユルゲンシュミットという箱庭だけではなく、彼女が知っていた世界を。もっと見て、もっと描きたい。
それから私は、絵筆がとれなくなるまで『夢の世界』の絵を描き続けた。
……神よ。もしも私も生まれ変わることができるのであれば、もっと。
はるか高みに向かう瞬間。私は脳裏に浮かぶ青く丸い星に向かって手を伸ばした。
- 了 -
あとがき(2024.11.25加筆):
最後のワンシーンがどうしても書きたくなって形にしたものでした。レスティラウト様なら青い星を美しいと感じてくださると思いまして……。
レスティラウト様に地球を見て欲しかったがために、いろいろと設定的な無茶をしてしまいましたが(笑) 「見せたかったなら仕方ないよネ!」とでも流していただけましたら幸いです。
お読みいただきありがとうございました。
[本好きの下剋上ファン作品 No.20]
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