得難い側近 『シャルロッテの胸がドキリと跳ねる。フラン、フィリーネ……ローゼマインを慕う者達とのひとときは、シャルロッテに何をもたらしたのか。』……強く前を向く、シャルロッテのお話です。(原作短編集1/SS置き場10『わたくしの主はローゼマイン様です』のシャルロッテ視点のイメージでもあります) 冬が来て、八歳になり、わたくしにとって二年目の子供部屋が始まりました。 わたくしの統率の手腕などローゼマインお姉様に比べればまだまだでしょうが、何もかも手探りでした昨年よりは目が配りやすくなったように感じます。 自由時間に部屋を見渡せば、思い思いに過ごしているように見える子供達が、実際には派閥だけで集まっているのか、本当に気の向くまま交流を楽しんでいるのか、貴族らしく打算を持って社交に挑んでいるのか、なども見えてきます。 わたくしは、どの集まりにもそれぞれの利があるように感じました。 立場を失いながらも支え合おうとする派閥。 お姉様の指揮によって子供部屋にもたらされたという、階級や派閥に左右されない交流。 従来どおりの、階級の低い者は庇護者を、高い者は支持者を求めるような社交。 どれも無視はできない大切なことを含んでいるように感じられます。 それぞれの利点と欠点を考えながら眺めていると、今度はどの集まりにも入っていない者が目に付きました。 昨年の白の塔事件でお兄様を唆した者が派閥からも疎まれているのは理解できますが、一人でいる理由はなさそうに見える者も黙って書き物をしています。 ……何をしているのでしょう。立場の弱い下級貴族の女の子が、庇護者も求めずに。 胸がざわりとしました。どうしてか、その姿をもう見ていたくないような、見なければいけないような、恐れのような焦りのような気持ちが湧き出てきて、止まらなくなります。 ……わたくしはなぜ、これほどまでに? 心を乱してしまっている原因が自分でもよくわかりません。 ……接してみればわかるでしょうか。 わたくしは意を決して彼女に歩み寄ると、書き物の手が止まったところを見計らって声をかけました。「フィリーネはどうしてそのようにお話を書いているの?」 お姉様は予算的に不利な貴族の子供達に、お話と引き換えに教材を貸し出していらっしゃいました。お姉様が眠ってしまわれてからも貸し出しは続けられていますから、お話を書くことが彼女達の利益になることは知っています。 しかし、教材は借りられても、それだけです。下級貴族が社交の機会を削ってまで行うことだとは思えません。 フィリーネの返答は、お姉様に喜んでいただきたい、というものでした。「あら、それは、お姉様の側近になろうと思っているということ?」 確かに、お姉様の側近になれるならば、庇護者を探す必要はなくなるでしょう。お話をたくさん捧げる者をお姉様が無下に扱うとも思えません。しかしフィリーネは下級貴族です。将来的に重用されるとは考えにくく、無謀な望みであるようにも感じます。 わたくしが目を丸くすると、フィリーネも若葉色の瞳を見開きました。フィリーネ自身も側近になれるとは思っていないそうです。 ……ではなぜ、お姉様がいらっしゃるかのようにお話を書き続けていられるのでしょうか。 いつ目覚めるかもわからないお姉様に、側近でなくとも仕えたいと思えるのでしょうか。「接したのは一昨年の子供部屋だけなのですよね?」 わたくしが問いを続けると、フィリーネは書いていた木札にふわりと視線を落とし、大切そうに撫でました。 ……あ。 わたくしの胸がまた跳ねました。この感覚には覚えがあります。 ……思い出しました。 あれは春のこと。少しでもお姉様の代わりをしたいと祈念式に向かったわたくしを支えてくれたのは、お姉様の神殿での側仕え、フランでした。 フランにお姉様のお話をせがんだわたくしは、その語り口から、表情から、フランが思ったよりもずっと深くお姉様を慕っていると気付き、衝撃を受けました。 ……わたくしはこのように慕われているでしょうか。 衝撃と共に、お姉様のように慕われる主になりたいと、強く思ったのです。 フィリーネが呼び起こしたのはその気持ちでした。 側近になれなくともお姉様こそが自分の主なのだと。言い切ったフィリーネの表情は柔らかくも堂々としていて、瞳は目の前にお姉様がいらっしゃるかのように輝いています。 フィリーネは口にした言葉の通りに、どんな立場になろうとも、お姉様のためにできることをするのでしょう。 ……わたくしはこのような臣下が欲しかったのですね。 原因がわかると、乱れた心は急速に落ち着いていきました。わたくしはきっと無意識に感じとっていたのでしょう。フィリーネはお姉様の忠臣であると。そして、わたくしの目標そのもののようなフィリーネの姿を目の当たりにして、己のありようを問われたように感じ、焦ってしまったのでしょう。 お姉様と全く同じことはできなくてもいい。焦らずに自分にできることを増やして行きたい。そう折り合いをつけたつもりでしたが、まだまだ心構えが足りていなかったようです。 ……欲するだけではなく、フィリーネを見習わなくてはなりませんね。 次期領主にと育てられていたわたくしは、候補からはずされたり戻されたりしたうえお姉様が眠ってしまい、不明瞭になった状況に心を揺らしていました。領主を目指したい気持ちは消えてはいませんが、足元がぐらぐらしてどちらが前なのかわからなくなるような、落ち着かなさも覚えていたのです。 そんなわたくしに、将来の立場がどうであろうと実直に努力を重ねるフィリーネの姿は、力強く温かい気持ちをもたらしてくれました。 ……わたくしも、フィリーネのように。 少しでも胸を張ってお姉様と再会するために。 ……フィリーネのような臣下を得るためにも。 どんな事にも真摯に向き合って見せましょう。 気持ちの整理ができたわたくしは、フィリーネに心からの褒め言葉を伝えると、また子供部屋の様子に目を向けました。[本好きの下剋上ファン作品 No.18]#シャルロッテ #フィリーネ #本好きファン小説 #なかみゑ自薦 本好きファン作品/小説* 2021/02/17(Wed) 11:31
『シャルロッテの胸がドキリと跳ねる。フラン、フィリーネ……ローゼマインを慕う者達とのひとときは、シャルロッテに何をもたらしたのか。』
……強く前を向く、シャルロッテのお話です。
(原作短編集1/SS置き場10『わたくしの主はローゼマイン様です』のシャルロッテ視点のイメージでもあります)
冬が来て、八歳になり、わたくしにとって二年目の子供部屋が始まりました。
わたくしの統率の手腕などローゼマインお姉様に比べればまだまだでしょうが、何もかも手探りでした昨年よりは目が配りやすくなったように感じます。
自由時間に部屋を見渡せば、思い思いに過ごしているように見える子供達が、実際には派閥だけで集まっているのか、本当に気の向くまま交流を楽しんでいるのか、貴族らしく打算を持って社交に挑んでいるのか、なども見えてきます。
わたくしは、どの集まりにもそれぞれの利があるように感じました。
立場を失いながらも支え合おうとする派閥。
お姉様の指揮によって子供部屋にもたらされたという、階級や派閥に左右されない交流。
従来どおりの、階級の低い者は庇護者を、高い者は支持者を求めるような社交。
どれも無視はできない大切なことを含んでいるように感じられます。
それぞれの利点と欠点を考えながら眺めていると、今度はどの集まりにも入っていない者が目に付きました。
昨年の白の塔事件でお兄様を唆した者が派閥からも疎まれているのは理解できますが、一人でいる理由はなさそうに見える者も黙って書き物をしています。
……何をしているのでしょう。立場の弱い下級貴族の女の子が、庇護者も求めずに。
胸がざわりとしました。どうしてか、その姿をもう見ていたくないような、見なければいけないような、恐れのような焦りのような気持ちが湧き出てきて、止まらなくなります。
……わたくしはなぜ、これほどまでに?
心を乱してしまっている原因が自分でもよくわかりません。
……接してみればわかるでしょうか。
わたくしは意を決して彼女に歩み寄ると、書き物の手が止まったところを見計らって声をかけました。
「フィリーネはどうしてそのようにお話を書いているの?」
お姉様は予算的に不利な貴族の子供達に、お話と引き換えに教材を貸し出していらっしゃいました。お姉様が眠ってしまわれてからも貸し出しは続けられていますから、お話を書くことが彼女達の利益になることは知っています。
しかし、教材は借りられても、それだけです。下級貴族が社交の機会を削ってまで行うことだとは思えません。
フィリーネの返答は、お姉様に喜んでいただきたい、というものでした。
「あら、それは、お姉様の側近になろうと思っているということ?」
確かに、お姉様の側近になれるならば、庇護者を探す必要はなくなるでしょう。お話をたくさん捧げる者をお姉様が無下に扱うとも思えません。しかしフィリーネは下級貴族です。将来的に重用されるとは考えにくく、無謀な望みであるようにも感じます。
わたくしが目を丸くすると、フィリーネも若葉色の瞳を見開きました。フィリーネ自身も側近になれるとは思っていないそうです。
……ではなぜ、お姉様がいらっしゃるかのようにお話を書き続けていられるのでしょうか。
いつ目覚めるかもわからないお姉様に、側近でなくとも仕えたいと思えるのでしょうか。
「接したのは一昨年の子供部屋だけなのですよね?」
わたくしが問いを続けると、フィリーネは書いていた木札にふわりと視線を落とし、大切そうに撫でました。
……あ。
わたくしの胸がまた跳ねました。この感覚には覚えがあります。
……思い出しました。
あれは春のこと。少しでもお姉様の代わりをしたいと祈念式に向かったわたくしを支えてくれたのは、お姉様の神殿での側仕え、フランでした。
フランにお姉様のお話をせがんだわたくしは、その語り口から、表情から、フランが思ったよりもずっと深くお姉様を慕っていると気付き、衝撃を受けました。
……わたくしはこのように慕われているでしょうか。
衝撃と共に、お姉様のように慕われる主になりたいと、強く思ったのです。
フィリーネが呼び起こしたのはその気持ちでした。
側近になれなくともお姉様こそが自分の主なのだと。言い切ったフィリーネの表情は柔らかくも堂々としていて、瞳は目の前にお姉様がいらっしゃるかのように輝いています。
フィリーネは口にした言葉の通りに、どんな立場になろうとも、お姉様のためにできることをするのでしょう。
……わたくしはこのような臣下が欲しかったのですね。
原因がわかると、乱れた心は急速に落ち着いていきました。わたくしはきっと無意識に感じとっていたのでしょう。フィリーネはお姉様の忠臣であると。そして、わたくしの目標そのもののようなフィリーネの姿を目の当たりにして、己のありようを問われたように感じ、焦ってしまったのでしょう。
お姉様と全く同じことはできなくてもいい。焦らずに自分にできることを増やして行きたい。そう折り合いをつけたつもりでしたが、まだまだ心構えが足りていなかったようです。
……欲するだけではなく、フィリーネを見習わなくてはなりませんね。
次期領主にと育てられていたわたくしは、候補からはずされたり戻されたりしたうえお姉様が眠ってしまい、不明瞭になった状況に心を揺らしていました。領主を目指したい気持ちは消えてはいませんが、足元がぐらぐらしてどちらが前なのかわからなくなるような、落ち着かなさも覚えていたのです。
そんなわたくしに、将来の立場がどうであろうと実直に努力を重ねるフィリーネの姿は、力強く温かい気持ちをもたらしてくれました。
……わたくしも、フィリーネのように。
少しでも胸を張ってお姉様と再会するために。
……フィリーネのような臣下を得るためにも。
どんな事にも真摯に向き合って見せましょう。
気持ちの整理ができたわたくしは、フィリーネに心からの褒め言葉を伝えると、また子供部屋の様子に目を向けました。
[本好きの下剋上ファン作品 No.18]
#シャルロッテ #フィリーネ #本好きファン小説 #なかみゑ自薦